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幸福を呼ぶ猫 【短編小説】

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俺は、就職して今まで15年間、毎回欠かさず同じ数字でロト6を買い続けている。

もちろん1000円しか当たったことは無いのだが、これだけ長く買い続けていると、この行為は人生の一部となり、買わないわけにはいかなくなってしまっている。

 

そして、土曜日。

5週間に一度、ロト6を買わねばならない日がやってきた。

15年間繰り返してきた、駅前の宝くじ販売所に、ロト6を10回、5週間分を購入しに行く。

その途中に事故は起こった。



宝くじ販売所の手前約100メートル地点、動物病院の前に差し掛かった時、

「あっ!」

俺はとっさに大声を上げた。

黒猫が道路に飛び出したのだ。

大型トラックがブレーキもかけずに通り過ぎる。

誰もが悲惨な光景を目にすることを覚悟した。

 

しかし、予想に反して、黒猫は無傷で道路の中央にうずくまっていた。

トラックの車体の下を、うまく潜り抜けたらしい。

しかし、腰が抜けてしまったのか動こうとしない。

このままでは危険であることは目に見えている。

次の車が来る前に助け出さねば。

俺はダッシュして、道路にうずくまる黒猫を抱き上げると歩道に駆け戻った。

 

「うっ!」

駆け戻った時に、道路の段差で思い切り右足首をひねった。

「ビシッ」

足首に嫌な音が、そして激痛が走った。

俺はラグビー選手がトライするように、黒猫を抱いたまま歩道に転がった。

 

猛烈な痛みで立ち上がることができない。

 

「大丈夫ですか?」

目を開けると、若い女性の顔。

美人だが、それよりも足が痛い。

涙でかすむ風景、後ろに動物病院の看板。

 

「足、立てない・・・」

彼女は俺から黒猫を抱き上げると、

「救急車を呼びますね」

といっって動物病院に駆け込んでいった。

 

俺はアキレス腱を切断し、そのまま担ぎ込まれた病院に1週間の入院となった。

黒猫は、俺の退院まで動物病院で預かってもらうこととなった。

その間、体中にまとわりついていた蚤やダニの駆除もやってくれるという。

だが、黒猫は野良猫であって俺の猫ではないのだが・・・

 

入院して3日目の夜、買いそびれたロト6の当選番号を、病院のベットの上でスマホで確認した俺は、心臓が止まる思いだった。

 

当たっていたのである。

 

正確に言うと、買ったら当たっていた。

 

2億円、2億円が俺からすり抜けて行った。

こんな事があって良いのだろうか。

同じ番号を15年間買い続けてきた俺の人生はいったい何だったのだろうか。

 

いつだったか、確かイギリスで同じような出来事があったことを思い出した。

彼は人生を悲観して自ら命を絶ったのだった。

 

今の俺には彼の気持ちがよくわかる。

俺が死なないのは、彼より当選金額が安かったから・・・・なのだろうか。

 

入院中、俺は失意のどん底に突き落とされた。

 

そして1週間後。

右足首をギブスで固定された俺は、自宅の1LDKのマンションに戻った。

同時に、黒猫もやってきた。

奴(雄だった)は、窓辺のクッションで気持ちよさそうにくつろいでいる。

無気力な俺を見つめ、満足した表情で

「ニャア」

と鳴いた。

 

俺の入院中の1週間で、奴は見違えるようにきれいになっていた。

助けたときは薄汚れていて気が付かなかったのだが、額には白いハートマークが。

そして、4本足はまるで白いソックスか足袋を履いているようだった。

 

俺は奴を「タビ」と呼ぶことにした。

 

そして「タビ」との生活が始まった。

 

右足首はまだギプスが取れない。

幸い、しばらくは会社に出ることはできない。

2億円を手にすることができなかった俺が立ち直るには、少ない休暇ではあるのだが。

 

唯一の慰めは、世話になった動物病院の女性が様子を見に来てくれることだ。

言い忘れたが、彼女は独身でまるで、「広瀬すず」のように愛らしい女性である。

俺はこの時ばかりは2億円を忘れ、そして右足が治らないでほしいと願った。

 

そんなある日、彼女は「タビ」の写メを、俺との出会いの記事とともにSNSに投稿した。

 

彼女の投稿は拡散され、瞬く間に「タビ」は世間に知れ渡るようになっていった。

「額のハート、かわいいー」

「幸運の猫ちゃん」

「タビの写メは幸運のお守り」

などと言われ、日本のみならず、世界中にフォロワーが広がっていった。

 

そして今、「タビ」はスターになった。

雑誌、ポスター、CM、テレビ、映画・・・・

「タビ」の姿をメディアで見ない日はなくなった。

 

俺と彼女は、いわゆる「タビ」のマネージャーとして日々忙しく働いている。

そして、信じられないことに俺と彼女は結婚しているのだ。

 

それだけではない。

「タビ」の飼い主である俺たちの収入は、俺が当てることのできなかったロト6の金額を大きく超えるものとなっていた。

 

まさに「タビ」は俺にとって幸運の猫ちゃんなのである。