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ブロガー、アフィリエイター、フォトグラファー、マルチクリエイター目指して楽しく生きる!

何をしているんですか?  【短編小説】

俺は新しいカメラを手に入れ、喜び勇んで撮影に出かけた。

富士山麓の森の中で、苔を撮影しようと思ったのである。

 

新しいカメラは、マクロレンズ顕微鏡モードが売りである。

趣味の苔の撮影には最高のカメラだと思っている。

 

目的の場所に到着し、車を停めて森に入った。

鳥のさえずり、木々の間から差し込む太陽の光、最高の時間を過ごすことが出来そうだ。

 

移動しながら地面にしゃがみこみ、苔を撮影し始めた。

 

そんな時、後ろから声を掛ける人がいた。

 

「何をしているんですか?」

 

苔の撮影中にはよく掛けられる質問だ。

 

「苔の写真を撮っているんですよ」

答えながら振り返ると、そこには若い女性が立っていた。

 

森の中には不釣り合い、どちらかというと都会の風景に似合いそうな恰好である。

そんな恰好で森に来たのか?

何を考えているんだか。

そんな思いが頭の中に広がった。

 

「なぜ苔の写真を撮るんですか?」

 

質問する人は、写真を撮っているというと、普通は納得して立ち去るのだが、この女性は質

問を続けたのだった。

 

「なぜって、苔が好きだからだよ。美しいじゃないか」

 

さらに女性は質問を続ける。

「どうするんですか?」

 

「どうもしないよ、趣味だから」

 

「なら、何のために?」

 

なかなか禅問答が得意な女性のようだ。

 

「何のためにって言っても、まあ人生の楽しみのためかな」

 私はそう言って、また苔に向かい合った。

苔ってさ、 肉眼で見るよりもカメラのマクロレンズを通してみると、また別な世界が広が見えるんだよ。

 

苔の面白さを一通り説明して振り返った時には、もう既に女性はいなかった。

 

どこへ行ってしまったんだろう。

 

まぁ、苔に興味がなかったんだろうなしょうがない。

 

それにしても、あんな格好で一人で来たのか?

そう思ったのもわずかの時間で、また俺は森の中の時間を楽しみ始めた。

 

それからである。

私が本を読んでいる時、喫茶店でぼーっとしながらコーヒーを飲んでいる時、ジョギングをしている時、決まって必ず彼女の声が聞こえてくるのである。

 

「何をしているんですか?」

 

「何のために?」

 

 一体どうしてしまったんだろうか。

 

まるで俺の人生観を聞いているようだ。

いや、人はなぜ楽しもうとするのかを確認するように。

 

しかし、おれに禅問答は似合わないのだ。

 

季節は冬だ

 

私は水平線から昇る太陽を写真に撮ろうと、早朝の海岸に来ていた。

 

寒い。

カメラを三脚にセットして、ダウンジャケットに手を突っ込み、日の出の時間を待っていた。

 

すると、またあの女性の声が聞こえた。

 

「何をしているんですか?」

 

振り返ると例の女性が立っていた。

 

「 冬の日の出を取ろうと思ってね」

 

「どうするんですか?」

 

「どうもしないよ」

 

「何のために?」

 

 私はにっこりと笑って彼女にと答えた。

 

「楽しむためさ、なぜならそれはね人間の特権だからね」

 

すると彼女はにっこりと笑った。