ログイン 気ままにエンジョイライフ・ドットコム

ブロガー、アフィリエイター、フォトグラファー、マルチクリエイター目指して楽しく生きる!

イノシシの思い ~猟で捕まったウリ坊の思いは・・・日本人は食べ物に対する感謝を忘れてしまった?【短編小説】

f:id:masaogasan:20191116160109j:plain

「イノシシの思い」

僕の右足がガクンと引っ張られ、鈍い痛みが走った。

お母さんや兄弟たちが、立ち止まって僕を見ている。

早く家族のところに追いつかなくちゃ。

でも、焦れば焦るほど右足の痛みは強くなる。

引っ張られて前に進めない。

 

「どうしたんだ、どうしたんだ」

 

しばらくお母さんや兄弟たちは僕を見つめていた。

お母さんの目が悲しそうにうるんでいた。

 

右足が痛い、動けない。

僕は座り込んで目を閉じ、痛みをこれ得ることしかできなかった。

お母さんと兄弟たちは、ゆっくりと僕のそばから立ち去って行った。

 

「待って、待ってよ、僕を置いて行かないで」




初めての猟に同行した。

罠猟だと?

 

罠を仕掛けた場所を見て回るだけじゃないか。

俺にとっては地味すぎる猟だ、疲れるだけだ。

俺は同行したことを後悔していた。

 

日本国内でもハンティング(狩猟)ができる。

その一言で、俺は地元の有力者である父親のコネをフル活用して今回の猟に同行した。

しかし、この地味さは何なのだ。

 

ジープにのり、動物を追い詰め、ライフルで仕留める。

それが俺のやりたい猟、ハンティングなのだ。

そんなことを、日本で期待するのは間違いだった。

 

ハンティングを始めるぜ、と仲間内に宣言してしまった手前、そして地元の有力者である父親の手前断ることは出来なかった。

しかも、今日は何としても獲物は持って帰らなければカッコがつかない。

ジビエ肉に釣られた仲間は、すでに東京でレストランを借り切って待っているのだ。

とにかく獲物を持って帰らなければ、俺のメンツがつぶれてしまう。

 

しかし地味で疲れる。

こんなはずじゃぁなかった。

 

すると、マタギの爺さんが歩みを止めた。

獲物だ。罠に獲物が掛かっている。




何かが近づいてくる。

痛みでかすむ目を開けてみた。

 

人間だ。二人いる。

逃げなくちゃ。

お母さんに、人間の気配を感じたら逃げるように言われていたっけ。

 

僕は気力を振り絞って立ち上がった。

 

すると、若くてカラフルな色の服を着ている人間が、突然奇声を上げて駆け寄ってきた。

手には棒のようなものを持っている。

 

ガツン、頭部に痛みが走った。

意識が遠のき、僕は倒れた。




罠にかかっている獲物はまだ縞模様が残るイノシシだった。

小さい。

手ごろな大きさだ。

 

俺は爺さんから棒を奪い取ると、静止を振り切って獲物に駆け寄り、小さな頭部をぶん殴った。

一撃で獲物は倒れた。

俺はすかさず腰のハンティングナイフを引き抜くと、喉を切り裂き、心臓を突き刺した。

生暖かい血がほとばしる。

 

チョロイもんだぜ。

 

獲物をワークブーツで踏みつけた。

記念写真、と行きたいところだが、こんな小さな獲物じゃ俺のプライドが許さない。

しかし、仲間内でジビエ肉を楽しむには十分だ。

 

俺はマタギの爺さんに、これで十分だから山を下りると言った。

こんなに地味な猟はもうたくさんだ。

爺さんの目はなぜか怒りに満ちていたが、知ったことか。




僕の体はお爺さんに担がれて山を下りた。

僕を担ぐとき、お爺さんは手を合わせ、すまないという念を僕に送ってきた。

そして、僕の体はお爺さんの手によって丁寧に解体された。

 

僕の解体された体のほとんどは、若い男がクーラーボックスに入れ、東京のレストランという場所に運ばれて行った。

 

f:id:masaogasan:20191116160107j:plain




「さぁ、食ってくれ、取れたてのジビエ肉だ。ふつうは何日か寝かせるんだが、まだ子供の肉だから大丈夫、臭くはないぜ。

お前たちに楽しんでもらうために、あえて子供を狙ったんだぜ、感謝しろよ」

 

仲間たちは喜んで俺の持ってきた獲物を食べてくれた。

 

まぁ、今回初めて猟を経験したんだが、日本の猟って、地味だね。俺向きじゃぁないよ。

こいつだって、あっという間に片づけちまったんだ。

ぶん殴って、ナイフでグサッ、それでいちころ。

手ごたえも何にも無かったね。

 

今回はさ、おやじの地元だし、親孝行を兼ねて息子の俺が出向いてやったんだが。

日本の狩猟と俺らが思っているハンティングは、例えれば、野球とベースボール、いやそれ以上の違いがあるな。

 

やっぱり俺はワールドワイドでハンティングを楽しむぜ。

 

ワインに酔った俺は、仲間を前に雄弁にハンティングに対する思いを語った。




僕の体は切り刻まれ、焼かれ、煮込まれ、彼らの体内に入っていった。

そして分解され、吸収されて行ったのだ。

こんなやつの命をつなぐために僕の体は使われてしまうのか。

悔しい、悔しい・・・・




パーティーは大成功だった。

普通は臭いと言われるイノシシの肉だが、子供の肉だけあって、また処理もマタギの爺さんが手際よくやったためにおいしく食べられた。

 

仲間内での俺の面子も保たれたってことだ。

 

それにしても体が火照る。さすがイノシシの肉だ。

酔いも回った。

今日はゆっくりと寝ることにしよう・・・

 

俺は夜の森の中をさまよっていた。

何故かはわからない。

枯葉を踏む乾いた足音だけが耳に入ってくる。

 

と、その時だ。

バシッ、という音とともに、右足に痛みが走った。

何かが絡みついている。

振りほどこうとすればするほど足に食い込んでくる。

 

俺は焦った。

 

痛い、痛い・・・

痛みで目がくらむ。

 

どのくらい時間が経過したのだろうか、あたりは明るくなってきていた。

その時、足音が聞こえてきた。

人間だ、助かった。

俺は叫んだ。

 

「おーい、ここだ、助けてくれ」

 

その時、藪から現れたのは・・・

 

俺だった。

 

俺は手にこん棒を握り締めている。

 

俺を見つけると、もう一人の俺は、奇声を発して俺に駆け寄ってきた。

そしてこん棒を俺に向かって振り下ろした。

 

グキッ、

 

鈍い音とともに、激痛が後頭部に走り俺は気を失った。

 

俺は汗びっしょりになり飛び起きた。

なんだ、今の夢は。

妙にリアルだった。

後頭部をさすってみた。

なんだか鈍い痛みが残っているような気がしたからだ。

 

それから毎日、眠りに落ちると必ず同じ夢を見るようになった。

何故だ、何故なんだ。

酒の量が増えた。

部屋に引きこもって一日中飲んでいる。

そして寝てしまうと同じ夢だ。

俺は狂ってしまったのか・・・




囲炉裏の回りにマタギ仲間が集まっていた。

もうみんな年寄りだ。

若いマタギはいない。

 

今夜は久しぶりにシシ鍋で一杯やるのだ。

肉は、先だって地元の権力者に頼まれて、彼の息子を猟に連れて行ったときに、そいつが罠にかかったウリ坊を殴り殺したその肉のあまりだ。

 

かわいそうなことをした。

 

感謝の念も何もなく、ただ己の快楽のためにこのウリ坊を殺させてしまったのだ。

マタギの爺さんは、心で詫びと、今から我々の体の一部になるウリ坊に感謝をささげた。




お爺さんは僕に感謝をしてくれている。

今から僕の肉は、お爺さんとその仲間の体を支えるのだ。

うれしかった。

あの、僕を殴り殺した男とは大きな違いだ。

僕は喜んでお爺さんたちの体の一部になる。

心が落ち着くのを感じる。

もうあの男のことはどうでも良くなった。

 

お爺さん、ありがとう・・・