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お父さん安住の地を見つける  ~中年お父さんはなぜアウトドアにのめり込んでいったのか 【ショートショート 短編小説】

 

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お父さんは居場所がなかった。

10年前に35年ローンで購入した、3LDKの狭いマンション。

妻と娘二人の家族四人。

子供が大きく成れば、必然的にお父さんの居場所がなくなる。

 

「俺だって居場所が欲しい」

 

子供は娘二人だから、いずれは巣立つだろう。

そうすれば、この狭い3LDKのマンションも妻と二人。

十分に広くなる。

でも、そうなるまでまだ時間はある。

 

そんなお父さん、ついに安住の居場所を見つけることができた。

 

それはソロテントである。

 

テントと言ってもお父さんはアウトドア派ではない。

インドア派である。

だが、この狭いテントは今のお父さんにとって最高の空間なのである。

 

思い返してみれば、お父さんは子供の頃から狭い場所が好きだった。

子供の頃、中学生になって初めて自分の部屋を与えられた。

狭い三畳間の部屋。

窓は北側、でも自分の部屋が持てたことで幸せだった。

その限られた空間の中で、最もお気に入りの場所だったのは、さらに狭い押入れの中だった。

押入れの中にみかん箱を持ち込み、その上に蛍光灯を置いて本を読んだりプラモデルを組み立てたりする。

最高の時間だった。

 

時は流れた。

社会人となり、一人暮らしに別れを告げた。

結婚し、娘も二人。

都心から少し離れた場所に三十年ローンでマンションも購入した。

平凡でも、幸せに見えるかもしれないが・・・



娘も大きくなり、高校生と中学生、独立した部屋を与えている。

残る一部屋は妻が使うようになった。

 

寝るときは、イビキがうるさいという理由で(本当にイビキがうるさいにかは、お父さん自身は自覚がない。家族が言うのだから確かなのだろう)追い出されてしまったのだ。

今では家族の安眠を重視するために、2畳ほどのタンスが置いてある納戸スペースに布団を敷いて寝るのである。

 

タンスの部屋であるから、妻や子供たちの出入りはそれなりにあり、休日はゆっくり寝ていることもできない。

休日の昼間、居場所はリビングである。

 

このマンションに、お父さんのプライベート空間は存在しない。

昔愛した押し入れほどのスペースもないのだ。

 

週末、お父さんはいつものように散歩に出た。

リビングでくつろいでいると、妻や娘たちが煙たがるような気がするからである。

家族はそんなことは無いと言ってくれるのだが、微妙な雰囲気をお父さんは感じている。

だから、心優しいお父さんは決まって散歩に出かけるのである。

 

「少し体を動かしてくる」

今日もそう言って外に出た。

 

「あぁ、心から落ち着くことができるプライベート空間が欲しい」

 

本屋をのぞき、川べりお歩き・・・

 

この日、いつもは立ち寄ることのないアウトドアショップに入ってみた。

 

アウトドアには全く興味はない。

どちらかというと、室内で本を読んだり映画を見たりしているほうが好きなインドア派なのである。

 

本当に何となく入ってしまった。

 

アウトドアウェアは機能的で動きやすそうな気がした。

胸にブランド名が入っており、少し来てみたい気持ちになる。

 

二階に上がってみる。

 

シューズも武骨で頑丈そうだ。

ナイフ、興味をそそられる。

そしておもちゃのようにかわいいサイズの調理器具、どれもコンパクトだ。

 

ぶらぶらと見て回っていると、テントが目に入った。

小さな緑色のテントである。

 

お父さんの目はそのテントにくぎ付けになってしまった。

 

ゆっくりと歩み寄る。

POPによると、1~2名用のテント。

中にはマットが敷かれ、シュラフが広げられていた。

 

「テントをお探しですか?」

 

店員に声を掛けられビクッとする。

曖昧に笑い返し、

「入ってみても良いですか」

といってしまった。

 

靴を脱いでテントに入ってみる。

本当に寝るだけのスペースだ。

入口のファスナーを閉める。

完璧に外界と遮断された空間が現れた。

膝を抱えて座る。

テントを通して薄緑色の光が内部を照らす。

 

何だろう、この落ちついた雰囲気は。

何年ぶりだろう、こんなに満ち足りた気持ちになるのは・・・

 

それからお父さんの生活は大きく変わった。

見た感じ、アウトドアを愛する男に変身したのである。

 

ソロテントとシュラフ、その他のキャンプ用品を少しずつ購入した。

そして、春の訪れとともに、ソロキャンプに出掛けるようになったのである。

 

そんなに専門的なキャンプではない。

近場のキャンプ場が主な場所だ。

 

車にキャンプ道具とお酒、本などを積み込み週末に出掛ける。

 

キャンプ場ではテントにこもり、お酒を飲みながら本を読んだり音楽を聴いたり。

自分だけの空間に、自分だけの時間が流れる。

 

ソロキャンプを始めるようになって、家族の見る目も会社内の評判も変わってきた。

もちろん良いほうにである。

 

行動的な男として見られるようになったのである。

 

今、お父さんは幸せを手に入れた。

自分だけの「男の隠れ家」を手に入れたのである。

 

男という動物は不思議なもので、お父さんだけではなく、住宅事情に恵まれた男でも一人になりたくてキャンプに来る。

 

一人の場所を求めるのは、どうやら男の本能なのかもしれない。

 

週末、お父さんは男の本能に従って一人キャンプに出掛ける

キャンプ道具だけではなく、自分の癒しグッズを持って。