はじめに
10月に投稿した短編小説「幸せを呼ぶ猫」を修正しました。
タイトルは「黒猫と僕の不思議な関係」
短編小説なので、タイトルで結末が分かる事を避けたのです。
主人公も「俺」から「僕」へ。
イメージを柔らかくしたかったのです。
文字数も約1700字から2700字へ。
小説全体が薄っぺらい感じがしていたので、少しボリュームを持たせてみました。
お読みいただければ幸いです。
「黒猫と僕の不思議な関係」
僕は37歳の独身。
これといった趣味もなく、アクティブな毎日を送っているわけでもない。
そのせいか、彼女という存在にも無縁のままだ。
そんな僕が、15年間続けている事が一つだけある。
毎回欠かさず同じ数字でロト6を買い続けているのだ。
もちろん過去1000円しか当たったことしかない。
だが、これだけ長く買い続けていると、この行為は人生の一部となり、買わないわけにはいかなくなってしまっているのだ。
土曜日。
5週間に一度、ロト6を買わねばならない日がやってきた。
15年間繰り返してきた行為。
駅前の宝くじ販売所に、ロト6を10回、5週間分を購入しに行く。
僕は、スニーカーを履き一人暮らしを続けているマンションを出た。
そして、その途中に事故は起こった。
宝くじ販売所の手前約100メートル地点、動物病院の前に差し掛かった時。
「あっ!」
僕ははとっさに大声を上げた。
黒猫が道路に飛び出した。
黒猫は道路の真ん中で、目の前に迫った大型トラックを見て動きを止めてしまった。
大型トラックがブレーキもかけずに通り過ぎる。
誰もが悲惨な光景を目にすることを覚悟した。
しかし、予想に反して、黒猫は無傷で道路の中央にうずくまっていた。
トラックの車体の下を、うまく通り抜けたらしい。
しかし、腰が抜けてしまったのか動こうとしない。
このままでは危険であることは目に見えている。
次の車が来る前に助け出さねば。
無意識のうちに僕の体が動いた。
ダッシュして、道路にうずくまる黒猫を抱き上げるとターンして歩道に駆け戻った。
「うっ!」
駆け戻った時に、道路の段差で思い切り右足首をひねった。
その時、「ビシッ」という嫌な音が足首からきこえた。
激痛が走る。
俺はラグビー選手がトライするように、黒猫を抱いたまま歩道に転がった。
猛烈な痛みで立ち上がることができない。
「大丈夫ですか?」
目を開けると、若い女性が僕をのぞき込んでいる。
美人だ。
が、それよりも足が痛い。
涙でかすむ風景、後ろに動物病院の看板。
「足、立てない・・・」
彼女は僕から黒猫を抱き上げると、
「救急車を呼びますね」
と言って動物病院に駆け込んでいった。
俺はアキレス腱を切断し、救急車で担ぎ込まれた病院に1週間の入院となった。
黒猫は、僕の退院まで動物病院で預かってもらうことに。
その間、体中にまとわりついていた蚤やダニの駆除もやってくれるという。
だが、黒猫は野良猫であって俺の猫ではないのだが・・・
入院して3日目の月曜日の夜、ロト6の当選番号発表日。
僕は、買いそびれたロト6の当選番号を病院のベットの上でスマホで恐る恐る確認した。
「当たるはずがない、当たらないでいてくれ」
そして、結果は起きてはいけない事が起きてしまった。
僕は、心臓が止まる思いだった。
当たっていたのである。
正確に言うと、買ったら当たっていた。
2億円、2億円が僕の人生からすり抜けて行った。
こんな事があって良いのだろうか。
同じ番号を15年間買い続けてきた僕の人生はいったい何だったのだろうか。
いつだったか、確かイギリスで同じような出来事があったことを思い出した。
人生で一度だけ買い忘れたロトの番号が当たっていたのである。
それを知った彼は、人生を悲観して自ら命を絶ったのだった。
今の僕には彼の気持ちがよくわかる。
僕が死ななかったは、彼より当選金額が安かったから・・・・なのだろうか。
いや、病院のベッドの上で動けなかったからに過ぎない。
放心状態のまま、入院期間は過ぎ去った。
今更ロト6を買っても当たる事はないだろう。
そして1週間後。
抜け殻と化した僕は、右足首をギプスで固定した状態で退院し、自宅のマンションに戻った。
同時に、あの黒猫もやってきた。
奴(雄だった)は、窓辺のクッションで気持ちよさそうにくつろいでいる。
無気力な僕を見つめ、満足した表情で
「ニャア」
と鳴いた。
僕が入院していた1週間の間に、奴は見違えるようにきれいになっていた。
黒い毛はつやつやになり輝いていた。助けたときは薄汚れていて気が付かなかったのだが、額には白いハートマークが。
そして4本足の先は白く、はまるで白いソックスか足袋を履いているようだった。
僕を「タビ」と呼ぶことにした。
そして「タビ」と僕の男同士の共同生活が始まった。
右足首はまだギプスが取れない。
幸い、しばらくは会社に出ることはできない。
2億円を手にすることができなかった僕の心がが立ち直るには、ちょうど良い休暇だった。
そんな僕の唯一の慰めは、世話になった動物病院の女性が様子を見に来てくれることだ。
言い忘れたが彼女は独身でまるで、「広瀬すず」のように愛らしい女性なのだ。
僕はこの時ばかりはロト6の2億円を忘れ、そして右足が治らないでほしいと願った。
そんなある日、彼女は「タビ」の写メを、俺の救出劇から一緒に生活することになった記事とともにSNSに投稿した。
「タビ」の写メがSNSで紹介されてから数日が経過した。
彼女の投稿は拡散され、瞬く間に「タビ」は世間に知れ渡るようになっていった。
「額のハート、かわいいー」
「幸運の猫ちゃん」
「タビの写メは幸運のお守り」
などと言われ、日本のみならず、世界中にフォロワーが広がっていった。
彼女は毎日僕のマンションを訪れ、「タビ」の写メを撮ってSNSにアップした。
もちろん僕と彼女の距離も縮まって行く。
そのことは、僕にとって2億円よりも嬉しい出来事だ。
フォロワー数はあっという間に100万を超え、毎日増え続けている。
「おはよー、タビいる?」
彼女は動物病院に出勤する前に僕のマンションに立ち寄って、「タビ」の写メを撮る。
そして、僕のために簡単な朝食とコーヒーを準備してくれるのだ。
そして、夕方も立ち寄ってくれ、夕食を作ってくれる。
時にはお酒を飲むときも。
僕の足が治ってからも、彼女の訪問は続いた。
そして今、
「幸せを呼ぶハートのマークの黒猫タビ」
はスターになった。
雑誌、ポスター、CM、テレビ、映画・・・・
「タビ」の姿をメディアで見ない日は無い。
僕と彼女は、「タビ」のマネージャーとして日々忙しく働いている。
そして、信じられないことに僕と彼女は結婚しているのだ。
それだけではない。
「タビ」の飼い主である僕たちの収入は、僕が当てることのできなかったロト6の金額を大きく超えるものとなっていた。
そのようなこともあり、「タビ」の人気は国際的になってきた。
でも、「タビ」は新しいマンションの、日当たりの良い窓辺のクッションの上でくつろぐのがお気に入り。
時々頭を上げ、僕たちの顔を見つめると満足そうに
「ニャー」
と鳴く。
まさに「タビ」は僕と彼女にとって幸運の猫ちゃんなのである。
*最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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