創作の森に迷い込んだカエルの話

写真家、小説家などの創作活動にあこがれるカエルが、ふとしたきっかけで富士山の麓にある創作の森に迷い込んでしまったお話

ショートショート「ある朝、僕は天使になっていた」

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 朝目覚めたら、僕は天使になっていた。

 頭の上には黄金に光る輪、そして背中には翼が生えている。

 僕は早速ベッドから飛び降りて白い服に着替えて朝食の支度をしているお母さんの所へ。

 お母さんは僕の姿を見てにっこりと微笑んだ。

「さあ学校に行って、今日から多くの人に幸せを与えるのよ」

 

 学校に着くと、クラスのみんなは驚いて僕の周りに集まってきた。

 でもみんなニコニコしている。

 いじめっ子のマサト君も、いつもいじめられているケント君も、今日は仲良くニコニコしながら僕のところにやってきた。

 みんなの笑顔を見て、僕は本当にみんなを幸せにすることができる天使なんだって思った。

 いつも気難しい顔をしている怖い先生も、教室に入ってくると最初は驚いた顔をしていたけれど、すぐに今まで見たこともないようなニコニコ顔になって大きな明るい声で僕たちに「おはよう」といった。

 とっても気持ちのいい朝の始まりだった。

 

 次の日、学校では僕のほかにも4人の天使が現れた。

 上級生のマミさんとシノブ君、下級生のナツキちゃんにサトシ君だ。

 僕たちが天使になったおかげで、学校全体が幸せな雰囲気に包まれ、みんなの顔からは絶えず笑みがこぼれていた。

 天使は僕の学校だけではなく、街中いたるところに現れた。お父さんの会社でも何人か天使になった人がいると言っていた。

 よし、僕たちは頑張ってこの国中の人たちを全員幸せで包み込むんだ。

 

 それから少したったある日、クラスメイトのミチルちゃんが全身真っ黒な服を着た悪魔になって学校にやってきた。

 僕はビックリしてミチルちゃんに聞いた。

「どうして悪魔になんかなっちゃったの」

「夢の中でお告げがあったの。世の中幸せでいっぱいになっちゃったら、皆もっと幸せになりたくなる。そして、幸せが当たり前になっちゃったら幸せを幸せと感じなくなってしまうんだって。だから、みんなが幸せを感じるためには不幸も必要なので悪魔になってバランスを取りなさいって言われたの。そして朝起きたら私は悪魔になっていたの」

 ミチルちゃんの言っていることは、分かるような気もするし分からないようなきもするし。子供の僕にとってはなんだかとっても難しい問題だ。

 でも、なんだか僕のせいでミチルちゃんが悪魔になってしまったような気がして悲しい気持ちになってしまった。僕の心の中に生まれた悲しい気持ちも悪魔のミチルちゃんの影響なのかもしれない。

 

 しばらくして、僕の学校には天使になった人と同じくらい悪魔になった人があらわれ、みんな喜んだり悲しんだり、幸せになったり不幸になったりを繰り返すようになったんだ。

 

 しばらくすると、今度はクラスメイトのユミちゃんが弓と黄金に輝く矢を持って登校してきた。

「今日から私は愛のキューピットになったの。みんな素敵な人をみつけて幸せになるのよ」

 そう言って、僕たちに向けて黄金の矢を放った。

 ユミちゃんのほかにも何人か愛のキューピットが現れて、学校では沢山のカップルが誕生した。

 

 ユミちゃんがキューピットになった次の日、サキちゃんもキューピットの恰好をして登校してきた。

 でも、よく見るとサキちゃんは黄金の矢ではなく、鉛の矢を持っている。

「私は今日から恋を邪魔するキューピットになったの。世の中バランスが大切だから、恋の邪魔をすることも必要なんだってお告げがあったのよ」

 そういって、サキちゃんはユミちゃんと争って鉛の矢を放ち始めた。

 学校内ではあちらこちらでカップルが誕生したり分かれたり、大変なことになってしまった。

 

 それからは毎日のようにたくさんの神様が現れた。

 恵比須様が現れて皆をお金持ちにしたと思ったら、今度は貧乏神がそのお金を吸い取った。

 

 神様のほかにも鬼や天狗になった人も現れた。

 創造の神も現れれば、破壊の神も現れた。

 

 少しの間に、もう日本国中の人々は何かの神様になっていた。

 

 おかげで人々は目まぐるしく幸福になったり恋人を見つけたり、不幸になったり別れたりを繰り返し、大変な毎日を過ごすようになってしまったんだ。

 

 天使の僕たちも大変だ。ミチルちゃんたち悪魔が不幸にした人を一刻も早く見つけ出して幸せにしてあげなければならない。

 少しでも油断すると、ミチルちゃんたちは僕たちがせっかく幸せにした人たちをまた不幸に戻してしまう。

 僕たちはほかに神様になった人たちと競い合って、あっちこっちを忙しく走り回らなければならなくなってしまったんだ。

 

 いくらバランスを保たなければいけないと言ったって、これでは忙しすぎるよ、大変すぎるよ。

 もう毎日へとへとだ。

 お願い神様、何とかしてください。